(37) AIと人に仕事をどう振り分けるか
現在、多くの企業でのAI活用は、文章作成、検索、要約、Excelの支援といった個人作業から始まっています。それ自体に十分な価値がありますが、最新の技術は、すでに次の段階へ進み始めています。AIが一つの質問に答えるだけではなく、情報を集め、判断材料を作り、他のソフトウェアを操作しながら、複数の作業を続けて行えるようになっています。
米国での最近の議論も、モデルそのものの性能比較より、業務プロセス、企業データ、ソフトウェアとの接続が重要になっているという指摘が目立つようになりました。多くの識者が企業向けAIの競争がワークフロー、データ、AIを利用するための接続基盤へと移っていると指摘しています。
しかし、実際の企業におけるAI活用はまだそこまで進んでいません。OECD調査では、AI利用企業の76%が初期段階にあり、特定の業務処理にAIを幅広く導入している企業は4%に過ぎませんでした。したがって、今すぐすべての基幹業務にAIエージェントを導入しなければ競合に遅れてしまう、という話ではありません。
よって、現時点では一つの作業だけをAIにやらせる段階から、一連の仕事の中でAIと人の役割を分ける段階へ進むことが重要だと考えています。これによって新しい課題と解決策が生まれます。
例えばAIに、このメールを要約してくださいと頼むだけなら、それが間違っていても人が読んで直せます。責任の所在も明確です。AIは単なる補助者だからです。
ところが、次のような一連の仕事をAIに任せようとすると事情が変わります。
· 顧客からメールが届く
· AIが内容を読む
· 添付された注文書を確認する
· 社内システムで在庫を調べる
· 納期を計算する
· 顧客への回答案を作る
· 受注情報を更新する
ここまで来ると、途中のどこかで必ず判断が発生します。
たとえば在庫はあるが、別の重要顧客向けに確保しているかもしれません。注文数量が通常より大きく、顧客の入力ミスかもしれません。希望納期に間に合わせるには特急輸送が必要かもしれません。
人が一連の仕事をしていると、こうした判断を無意識に処理しています。「これはいつもと違うから上司に聞こう」「この顧客なら少し無理をしてでも対応しよう」といった判断です。
ところがAIに仕事を渡すと、そうした暗黙の判断をそのままにしておくことができません。
AIが判断してよいこと、人に戻すこと、必ず承認を求めることを決める必要が出てきます。つまり、AI導入は単なる自動化ではありません。業務そのものを見直す作業になります。
そして興味深いのは、そこで「人に残すべき仕事」も明確になることです。例外対応、取引先との関係を考えた判断、損失リスクのある承認、最終的な責任などです。
2026年のデロイトによる調査では、74%の回答企業が2027年までにAIエージェントを一定程度利用すると予想する一方で、約80%の企業では、AIが単独で判断してよい範囲、人の承認、監視、処理履歴といった管理の仕組みが十分に整備されていないことが分かりました。
従って経営者にとっての問いは「AIエージェントを導入するべきか」ではありません。この仕事のどこをAIに任せ、どこを人が判断し続けるのかを一つずつ考える方が成果につながります。
AI活用の次の段階は、新しいAI製品を使うことではなく、仕事そのものをAIと人の組み合わせで組み直すことだと私たちは考えています。
