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(35)  モビリティ革命が日本企業にもたらすチャンス(産業別)

前回は、自動運転が社会や産業の構造をどのように再構築しているかを見てきました。今回はその流れを踏まえ、日本企業が米国で強みを持つ業種ごとに、モビリティ革命がどのようなチャンスをもたらすかを考えます。

自動車・部品・精密機器メーカー──クルマから“移動プラットフォーム”へ

自動車の差別化要因は、ハードウェアからソフトウェアにシフトしています。車は「走るOS」として進化し、データを共有する社会インフラの一部となります。部品・精密メーカーにとっても、モーターや駆動系中心の時代は終わり、LiDAR、AI制御、通信部品など、知能化領域へ移っています。

もちろんハードウェアの重要性は残ります。その上で、ハードとソフトが相互に補完してこれまで以上の安全生と信頼性を低価格で実現することが、日本企業の勝機になるのではないでしょうか。ハードウェアでは個々の部品の高性能化が要求されますが、ソフトウェアではプラットフォーム作りやオープン化が要求されます。そうしたノウハウをいち早く身に着けたメーカーが優位に立つでしょう。テスラやBYDの勢いには目を見張るものがありますが、日本企業が培ってきた、品質へのこだわり、安全性、地域への貢献、環境への配慮などは、アメリカ人消費者にも十分訴求できるのではないでしょうか。

物流とロジスティクス──24時間自動化のサプライチェーン再編

物流は自動運転によって「止まらない経済」の中核になります。高速道路での隊列走行を行うレベル4自動トラックや、ラストワンマイルを担う自動配送ロボットがオンデマンドで稼働することで、都市の隙間に超小型供給基地を配置する分散型ネットワークや、AIによる動的な配送ルート最適化が当たり前になります。

ここでもソフトウェア(AI)とハードウェアと人間の高度な連携処理が差別化要因になるでしょう。たとえAIが最適の計画を立てても、それがまれにしか実現しない理想の条件をベースにしていれば物流は成り立ちません。現在のAIは大量の学習データがないと判断できません。物流のような世界では、仮置きのルールと実験による精緻化が必要で、そのためには人間の直観と経験が欠かせません。

物流業界ではM&Aによる寡占化が続いており、大手各社は顧客企業の需給予測・受発注処理・決済・顧客サービスなどをも代行するトータルロジスティクスプロバイダーになることを目指しています。しかし、勝負の鍵は「規模」だけではありません。日本企業が強みを持つコールドチェーンや精密機器輸送といった高付加価値領域は、大手が入り込めない「利益の源泉」です。 既存のニッチなノウハウをAIで強化し、「専門性の高度化」することが多くの日系物流企業の成長戦略になるはずです。

商社・エネルギー・インフラ──水平統合の経営力が生きる時代

総合商社は貿易の仲介者から、投資を通じてバリューチェーンを再構築する長期投資会社」に進化しました。自動運転による社会インフラの革新、電力とデータの需要拡大、そして米国の製造業回帰。こうした巨大な潮流を横断的に捉え、車両からエネルギー、データセンターまでを一つのシステムとして束ねられる存在は、企業は多くありません。

一点に集中して短期的利潤を追う米国企業とは対照的に、長期的な視点で地域社会を支ながら長期的な利益を追求する総合商社の姿勢は、これからの米国市場で歓迎されると思います。

また、エネルギーやインフラ構築においても長期的・重層的視点を持つ他の日本企業も、米国で成功する要素を持っていると思います。そのビジョンに共感する米国ステークホルダーとのパートナーシップ構築が一層重要になるのではないでしょうか。

IT・半導体──“移動を制御する頭脳”としての存在感

自動運転のコアは、従来のエンジン制御から、AIと高性能半導体による集中制御へと移行しています。車載コンピュータがカメラやLiDARの膨大な点群データをリアルタイムで処理し、瞬時に判断を下すには、スーパーコンピュータ並みの演算能力と、それを支えるエッジコンピューティング技術が欠かせません。これらには今のAIブームで話題になっている汎用CPUやGPUとは違った技術が必要です。計算速度に加えて高信頼性や耐久性が要求されます。

ここで日本のIT・半導体企業は、機能安全に基づく極めて高い信頼性と、EVの航続距離を左右する省電力により差別化できるはずです。演算性能だけでなく、発熱を抑え電力を守るパワー半導体や、遅延を極限までなくす次世代通信基盤の実装において、日本の技術を活かせるのではないでしょうか。

不動産・都市開発──“駐める”から“動かす”へ

ロボタクシーと自動運転シャトルの普及で、街の構造は変わります。駐車場やガソリンスタンドに代わって、充電・メンテナンス拠点が整備され、接続性が都市の価値を決めるようになります。

特に郊外型都市では、生活圏内で全てが完結するコンパクトシティへの再編が進みます。そこでは、自動運転バスの発着拠点と商業施設が一体化した複合ハブや、AIによる共同配送センター、さらには自動運転車が病院や教室として地域を巡回するモバイル・サービスがインフラとして実装されます。

これは単なる建設工事ではなく、エネルギー管理、交通管制、そして住民サービスを一体で提供する「エリアマネジメント」の領域です。長期的な投資と揺るぎないビジョンが不可欠ですが、インフラ輸出から街づくり、商流構築までを垂直統合で担える日本の建設・不動産・総合商社の「総合デベロッパー力」を活かせる分野と言えるでしょう。

おわりに──再編のチャンスをつかむ

これまで、自動運転とモビリティの未来について3回にわたりお伝えしてきました。

今後10年で米国の社会と産業構造は大きく変わるでしょう。その中でも、モビリティの進化がもたらす影響は最も大きな変革の一つです。この変化は、製造、物流、エネルギー、IT、不動産にとどまらず、素材、食品、医療、エンタメ、外食など、日本が強みを持つ多くの産業を再び結びつける“再編の機会”でもあります。

「ものづくりの力」と「仕組みを設計する力」の両方を備えた国は多くありません。日本企業はこれらの力に加え、信頼性と協調性という企業文化を持っています。このモビリティの再編を新たな成長のチャンスと捉え、社会変革をリードする日本企業が増えることを願います。

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