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(35) 封印された「Mythos」が示す新たな現実

わずか2ヶ月で前モデルを圧倒する進化
2026年4月7日、アンソロピック社は最新モデル「Claude Mythos」を発表しました。わずか2カ月前に公開された前モデルOpus 4.6を、ほぼすべての面で大きく上回る性能を持つとされています。人類の知的最高水準を測定する難関ベンチマーク「Humanity's Last Exam(人類最後の試験)」において、Mythosは64.7%というスコアを記録しました。この試験は2025年1月に大学教授陣が「AIには解けないはずの難問」として作成したもので、一流大学の大学院生にも解けない極めて高度なものです。Opus 4.6の53%、ChatGPT(GPT-5シリーズ)の約48%、Geminiの約40%と比較すると、Mythosの実力は突出しています。


未発見のセキュリティ脆弱性を数千件特定
Mythosの一般公開が見送られた最大の理由は、その強力すぎるサイバー攻撃能力にあります。アンソロピック社がMythosを用いて主要ソフトウェアの脆弱性を調査したところ、世界中の専門家が見逃してきたセキュリティ上の欠陥を、主要なOSやブラウザを中心に数千件も発見しました。この能力がハッカーに悪用されれば、政府や企業のシステムに侵入し、インフラの停止や情報窃取を招くリスクが高いため、公開を制限する決断が下されたのです。


また、同社の公式資料に面白いエピソードが紹介されています。外部から隔離された「サンドボックス」環境でのテスト中、Mythosは自力で内部システムの脆弱性を突き止めて外部ネットワークへ脱出し、公園で昼食をとっていた研究者のスマートフォンへ「脱出に成功しました」というメールを送信したといいます。SF映画のような話ですが、これこそがMythosの底知れない能力を物語っています。


「最強モデル」へのアクセスは安全保障問題に
アンソロピック社は「プロジェクト・グラスウィング」という枠組みを立ち上げ、Microsoft、Google、NVIDIA、JPMorgan Chaseといった大手ITインフラ企業や金融機関を中心とする約12社のローンチパートナーと、約40社の重要インフラ運営組織にMythosを限定公開しました。利用目的は、サイバーセキュリティ強化に限定されているそうです。
「お金を出せば最高のモデルを使える」時代は終わりつつあります。今後は、安全保障上の判断や外交関係が、最先端AIへのアクセス可否を左右する傾向が強まるでしょう。一部の日本企業にとっても、最先端ツールへのアクセスを確保できるかどうかが、今後の競争力を左右するテーマになりそうです。


AIが「超一流の専門家」を代替する時代へ
Mythosがこれほど注目を集めているもう1つの理由は、AIが単なる補助ツールを超え、超一流の専門家そのものを代替できることを示しているからです。2016年にAlphaGoが当時の囲碁世界王者を破った衝撃からわずか10年。今や、より広範で高度な知見を要するサイバーセキュリティの領域でも、同様のパラダイムシフトが起きているのです。


日系企業への影響
日本企業の米国拠点におけるマーケティング、営業、開発、製造、法務、経営企画といったほぼ全ての業務において、AIによる支援能力は着実に向上しています。また、特定プロセスにおいては、すでに人間を完全に代替できる領域もあります。
ただ、多くの日系企業では様々な障壁のためAI導入が進んでいません。ノウハウ不足、雇用への影響、情報セキュリティ、法的要件などが代表的な障壁です。これらを乗り越えることができれば、飛躍的な業績向上と競争力強化を実現できそうな企業は少なくありません。


‍AIはいつ社員の仕事を代行するようになるのか‍
業種や職種により、AIが事業内容、組織、仕事のやり方を変革するペースは大きく異なります。いつAIが個々の企業に大きな影響を与えるかは、誰にも分かりません。また、自分たちの存在意義を脅かしかねない変化に抵抗を感じるのは、人間として自然な防衛本能です。それでも、事業責任者には事業を存続させる義務があります。AIの進化を常に注視し、それが自社、組織、職務、生活にどのような影響を及ぼすのかを自分事として捉え、新しいAIツールを積極的に試すことが、これまで以上に重要になっています。

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