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(34) 見えてきた日系企業のAIの使い方と注意点

AIが人間を超えた超知性に進化するというシンギュラリティが話題になったのが10年ほど前、AIに対する期待感を一気に高めたチャットAIのChatGPT 3.5が登場したのが2022年でした。AIが人間の仕事を奪う、あるいは人間とコラボするだろうと言われてきましたが、その具体的な形は想像でしか語られてきませんでした。ようやく最近になってその輪郭がはっきりしてきたように思います。今回はAIと仕事の現在地について予測も交えて考えてみたいと思います。

顕在化するAIのインパクト
最近では日本の大手銀行がAIを導入することで事務職5000人を削減するというニュースがありました。米国ではすでに多くの大企業が大規模な人員削減の発表をしています。それによると、まずは事務職、つまりデータ入力、数字のとりまとめや分析、顧客対応、草稿作成、部署間連絡などをしていたスタッフワーカーがAIによって代替されます。スタッフがAIになればそれを監督する管理職もAIに代替されていくでしょう。AIに代替された従業員には、新たなスキルを習得する「リスキリング」を経て新たな職種への転換が期待されています。しかしながら、特に年長者にとってはそれまでの成功体験が変化を阻む負の資産となり、それを捨てて新しいことを学ぶ(アンラーニング)ことへの心理的ハードルがあるでしょう。そのハードルを超えることができたとして、ポストAI時代に人間に期待される仕事は何でしょうか。

AIで新たに生まれる仕事
実際にAIは歴史上最大規模の投資を呼び込み、多くの雇用を生み出しています。規模として大きいのは半導体やデータセンターやエネルギーなどの産業系の雇用ですが、AIを使う先進的なソフトウェアエンジニアのニーズは増加する一方です。この世界では数か月ごとに新しいコンセプトやツールが生み出され、それを世界中のエンジニアがフォローしています。情報のオープンソース化と情報産業であるがゆえの伝達スピードの速さが進歩を加速しています。エンジニアに次いでAIをビジネスに取り入れるアーリーアダプターが現れています。金融やヘルスケアなど先進的な産業がAI活用をリードしていますが、全ての産業でAIを取り入れて新たに製品・サービスと業務を作り直す仕事は需要があるでしょう。例えば製造業でも、市場での差別化要素がQCD(品質、コスト、納期)だった時代は終わっています。持続的に差別化できるのは、製品情報のタイムリーな提供であったり、使い方のノウハウの伝授であったり、トラブル対応などを含んだ顧客体験でしょう。AIはこうした価値提供におけるゲームチェンジャーになり得ます。結論として業務知識に加えてAIを使える人のニーズは増加していくと言えるでしょう。

ポストAI時代における仕事の仕方とは
コンピューターの使い方が画期的に変化します。それまでソフトウェアごとに複雑なユーザーインターフェース(メニューやコマンド)を覚えて作業をしていたのが、言葉でAIにやりたいことを指示するようになります。AIが他のAIと協同して働くことで、これまで人間が複数のソフトウェア(ERP、Excel、SaaS、PowerPoint、Emailなど)を立ち上げて行っていた、情報の転記・照合・分析、報告、という一連の作業工程を、AIが自動的に繋ぎ合わせて完結させるようになります。これを受けてソフトウェアも変わってきます。ソフトウェアは人間が時間をかけて要件を定義し開発し補修しながら利用するものから、人間の指示に基づいてAIが自動的に作成し更新していくツールになります。AI以前に導入されたERPやBIやワークフローのようなパッケージはAIによって時代遅れになってしまうかも知れません。IT部門の役割もソフトウェアの管理からAIと仕事の仕方の管理に変わっていきます。人間の仕事はAIに適切な指示を出すこと、AIのアウトプットを批判的に吟味しブラッシュアップすること、最終判断を下すこと、他の意思決定者(人間+AI)と意思疎通を図ること、などになります。

AIの限界と人間の新たな責任
人間とAIは一体化して仕事をするようになりますが、最終責任を取るのは人間です。LLMをベースにした現時点のAIは学習した言語データベース(コーパス)の統計的分析から回答(レポートやプログラム)を組み立てているに過ぎません。LLMは人間と違って因果関係に基づいて推論をしているのではないことに注意が必要です。人間とAIの間でやり取りされる自然言語の曖昧性やAIの限界を理解し、AIに歯止めをかけるのは人間の役割になります。さらにAIとシェアした情報はクラウドを通じて予想外に拡散する可能性があります。

AIガバナンスの必要性
企業でAIを使う場合は、このようなAIのリスクを理解し正しい使い方を社員に教える「AI教育とガバナンス」の構築が経営者の仕事になります。これはAIの発展に伴い毎年アップデートする必要があるでしょう。さらに様々なAIツールの取捨選択やオプションの設定などは専門家の力を借りる必要があるかもしれません。AIについては全ての企業が試行錯誤段階です。規模の大きさに関係なく、早く着手した企業が優位に立ちます。

ポストAI時代に人間に求められるスキル
これはすでにコンセンサスができているようです。問題発見力・解決能力、コミュニケーションやエンパシーなどのヒューマンスキル、統計やデータモデルなどのデータサイエンス、業務の深い経験(AIに騙されないこと、これはシニア従業員の貢献が期待されます)などですが、ベースとしてITとAIの基礎知識は全員に必須になるでしょう。日本の高校では2022年から「情報」が必修科目になっており、これは米国よりも進んだ動きです。大学にもこの動きは波及していて、IT・AIリテラシーを持った若手社員をどう活用するかは企業次第と言えそうです。

日本企業の経営者に考えていただきたいこと
AIの進化のスピードについていくのは個人にとっても企業にとっても容易ではないかも知れません。AIのもたらす変化は日本の戦後の経済成長のような単線的な進化ではなく、先を予想することが困難だからです。米国企業に比べると、多くの日本企業は保守的で現状維持バイアスに陥りリスクをを避けているのではないでしょうか。

日米ともに若者の保守化・安定志向が言われていますが、変化の激しいAI時代において若手メンバーが保守化することは最大のリスクだと言えます。AI時代において若手は業務補佐や見習いではなく、AIネイティブの仕事を実践する主体として活躍できるはずです。一方で意欲あるシニア層はAIを学び、自分の経験を活かしてAIの適正利用に貢献することができるでしょう。若手・シニアのどちらにとっても朗報なのは、AIのおかげで学習コストがゼロに近くなっていることです。これは人類史上初めてのできごとと言えるでしょう。本を読んだり学校に行ったりしなくてもAIと対話することで知識を身に着けることができるようになりました。意欲ある人にとってはいつでも学びなおしができる環境があります。もちろんこれは経営者にも当てはまります。

変革期はチャンスです。経営者は野心のある人・リスクをとる人に大きな役割とインセンティブを与えるべきです。今までの年功序列や行き過ぎた平等主義は成長のブレーキになりかねません、AIは意欲ある個人の力を解放させる最大のチャンスと考えてはいかがでしょうか。

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